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京都府では、人権という普遍的文化を構築することを目標に、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)に基づき、「京都府人権教育・啓発推進計画(第2次)(以下、「第2次推進計画」という。)」を策定したところであるが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、憶測によるデマや誤った情報の拡散、大学や個人への誹謗中傷、インターネット上での心ない書き込みなど、さまざまな事象が社会問題化したことから、2021年(令和3年)3月に「第2次推進計画」を改定したところである。
いまだに同感染症の終息が見通せない中で、人権に関する法律における地方公共団体の責務も踏まえ、同計画に基づき、2022年度(令和4年度)の人権教育・啓発の取組を推進する上での重点事項を明らかにするため、この実施方針を定める。
2021年度(令和3年度)における国内外の制度規範等の動きを概観すると、前年から続いている新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、全世界で瞬く間に社会・人権・人道というあらゆる側面に大打撃を与える「人類の危機」に発展し、収束しない状況にある。そのような中で国連は、7月に『持続可能な開発目標(SDGs)報告2021』を発表した。報告では、この感染症により、さらなる貧困の増加やフルタイム雇用の減少、また以前からすでに増えつつあった飢餓に苦しむ人がさらに増加したことなど、人々に大きな犠牲を強いていることを受け、SDGsの達成に向けた取組を一層高めていくことが必要だと認識する国やコミュニティが増えたとされている。SDGs達成には、各国政府、都市、ビジネスと産業がパンデミックからの復興を利用することにより、炭素の排出を削減し、天然資源を保護し、より良い雇用を創出し、ジェンダー平等を推進し、拡大する不平等に対処する、低炭素でレジリエント(強靱な)、かつ包摂的な発展の道を選ぶ必要があるとされている。
また、2021年(令和3年)11月には、国連総会で17年連続17回目となる北朝鮮人権状況決議が採択され、拉致問題を含む北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難し、その終結が北朝鮮に強く要求されている。
国内においては、「ビジネスと人権に関する行動計画」(2020年(令和2年)10月策定)の実施及び見直しにおいて、2021年(令和3年)3月、関係府省庁間の連携を図る仕組みとして関係府省庁連絡会議が設置されたところであり、今後、行動計画の実践が期待される。
また、SNSの普及などにより、問題となっているインターネット上の誹謗中傷など重大な人権侵害に対して、被害者救済を図るための法律であるプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 平成13年法律第137号)の改正が2021年(令和3年)4月に成立、2022年(令和4年)後半に施行が予定されている。これまでの問題点であった発信者を特定するための手続きの煩雑さが緩和されるなど、発信者情報の開示が前進することとなる。
さらに、2021年(令和3年)7月には緊急事態宣言下で東京2020オリンピック・パラリンピックが開催され、世界の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識する契機とされた。
一方、人権をめぐる状況をみると、同和問題(部落差別)や女性、子ども、高齢者、障害のある人、外国人等の様々な人権問題が依然として存在している。更に、新型コロナウイルス感染症による人権問題、インターネット上での人権侵害、長時間労働・過労死など働き方や労働環境に関わる問題、自然災害が頻発する中で、災害弱者への情報保障を含む配慮や感染症対策を講じた避難所運営のあり方、LGBT等性的少数者が直面する困難などの新たな人権課題も顕在化している。
また、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中、これら社会的に立場の弱い人々への影響が懸念される。
こうした中で、下表のとおり、人権に関わる多くの法律が成立又は施行されている。こうした法律に基づき、人権が尊重される社会の実現が一層図られるとともに、改めて、一人ひとりの尊厳と人権の大切さを、社会全体で共有していくことが強く求められている。
法律の名称 | 主な内容 | 備考 |
---|---|---|
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律 |
発信者情報の開示を一つの手続で行うことを可能とする「新たな裁判手続」創設 ログイン型投稿における発信者情報の開示が可能となるよう、開示請求を行うことができる範囲等 |
R3.4.28公布 公布日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日に施行 |
ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律 |
「つきまとい」に当てはまる規制の対象行為を追加 GPS機器等を用いた位置情報の無承諾所得等についても規制対象行為 |
R3.4.28公布 R3.8.26施行等 |
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律 |
個人情報の保護に関する法律の一部改正により、「個人情報」と「データ流通」の両立・強化、国際的制度調和のため、個人情報保護制度の見直しが行われるもの (1.国等と民間のルール共通化、2.地方公共団体への全面適用の2段階で施行) |
R3.5.19公布 1.R4.4.1施行 2.公布日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める |
少年法等の一部を改正する法律 | 18歳・19歳を「特定少年」と位置づけ少年法の適用対象とし、特定少年の取扱を規定 |
R3.5.28公布 R4.4.1施行
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良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律 |
医師に対する時間外労働の上限規制の運用開始に向けて措置を講ずるもの 医療関係職種の業務範囲を見直し、医師の負担軽減を図るもの |
R3.5.28公布 公布日施行 |
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 |
国及び地方公共団体の連携協力の責務の追加 事業者による社会的障壁の除去の実施に係る必要かつ合理的な配慮の提供を義務化 障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化 |
R3.6.4公布 公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行 |
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律 | 児童生徒等の尊厳を保持するため、教育職員等による児童生徒性暴力等の禁止とその定義、及び防止について明記 |
R3.6.4公布 公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日に施行 |
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律 | 出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするための措置 |
R3.6.9公布 R4.4.1施行等 |
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律の一部を改正する法律 | 諸外国と比べ大きく遅れている政治分野への女性参画の促進、男女を問わず、立候補や議員活動等をしやすい環境整備 |
R3.6.16公布 公布日施行 |
強制労働の廃止に関する条約(第百五号)の締結のための関係法律の整備に関する法律 |
「強制労働の廃止に関する条約」を締結するため、国内法を整備するもの |
R3.6.16公布 R3.7.6施行 |
中小事業主が行う事業に従事する者等の労働災害等に係る共済事業に関する法律 |
中小事業主が行う事業に従事する者等の労働災害等の防止、共済制度を確立 中小事業主が行う事業従事者等の福祉増進 |
R3.6.18公布 公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行 |
医療的ケア児およびその家族に対する支援に関する法律 | 医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資するための支援措置 |
R3.6.18公布 R3.9.18施行 |
京都府では、2019年(令和元年)10月に策定した府政運営の指針である「京都府総合計画(京都夢実現プラン)」において、20年後に実現したい京都府の将来像の一つとしてとして誰もが生き生きと暮らし、幸せを実現できる、「人とコミュニティを大切にする共生の京都府」を掲げ、一人ひとりの尊厳と人権が尊重され、性別にかかわらず、子どもも高齢者も障害のある人も、外国人も、全ての人が地域で「守られている」「包み込まれている」と感じ、誰もが持つ能力を発揮し、参画することのできる社会の実現に向け、いわゆる人権三法(障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消法)や「第2次推進計画」に基づき、国内外の状況も踏まえながら、関係機関や関係団体等とも連携して、人権問題の解決に向けた施策を推進してきたところである。
2021年(令和3年)6月には、新型コロナウイルス感染症の影響が、経済活動をはじめ日常生活・働き方・教育から文化、医療・福祉・地域社会に至るまであらゆる分野に及んでいることから、コロナ禍を踏まえた京都府総合計画を推進するための取組方針として、「京都府WITHコロナ・POSTコロナ戦略」を取りまとめ、感染症収束後の社会も見据えた取組を進めているところである。
2021年(令和3年)3月には、「第2次推進計画」を改定し、感染症に対する正確な知識の普及と偏見・差別の防止、人権相談窓口の充実強化と積極的な周知、インターネット上の差別や誹謗中傷の書き込みへの対応を行うとともに、府民のネットリテラシー向上に資する取組を進めるとしたところである。
なお、2020年(令和2年)に実施した「第2次推進計画」に関する府民調査では、2014年(平成26年)調査と比較して、「府民一人ひとりの人権意識は、10年前と比べて高くなっている」と感じる人の割合や「最近5年間に人権啓発に関する研修会に参加した人の割合が増加するなど、府民の中に人権教育・啓発の取組が浸透してきている一方で、「京都府は、人権が尊重された豊かな社会になっている」と感じる人の割合が減少しており、今後も引き続き、府民の人権意識の高揚や新たな人権課題などを踏まえた人権教育・啓発に取り組むことが必要である。
また、2021年(令和3年)3月に、第2期京都府教育振興プランが策定され、京都府教育の基本理念として、目指す人間像を「めまぐるしい変化していく社会において、変化を前向きにとらえて、主体的に行動し、よりよい社会と幸福な人生を創り出せる人」とし、主体的に学び考える力、多様な人とつながる力、新たな価値を生み出す力をはぐくみ、すべての子どもが愛情や信頼、期待などに「包み込まれているという感覚」を土台にして、「自己肯定感」をはぐくむことができるように、学校で、家庭で、地域で、教育に関わるすべての人々が、等しくこの想いを旨に、子どもたちに接していくこととしている。
人権教育は、推進方策2の「豊かな人間性の育成と多様性の尊重」に位置づけられ、一人一人が大切にされる共生社会の実現に向けた教育、豊かな人間性をはぐくむ教育、障害の有無や程度にかかわりなく学べる教育、子どもの未来の礎をはぐくむ教育、いじめや暴力を許さない学校づくり、不登校の子どもたちに寄り添う教育を目指す姿として位置づけている。
さらに、2021年(令和3年)3月に策定のKYOのあけぼのプラン(第4次)-京都府男女共同参画計画-では、男女の人権が平等に尊重され、固定的性別役割分担意識に捕らわれず、個人が尊厳をもって生きることのできる社会の実現のため、あらゆる分野における女性の参画拡大、安心・安全な暮らしの実現、男女共同参画社会の実現に向けた基盤の整備を図ることとしている。人権課題の解決に向けた主な取組としては、生活の場(家庭・地域)における男女共同参画の推進と就労、雇用などにおける男女共同参画の推進と仕事と生活の調和、男性の意識改革・働き方改革と男性の課題への対応、貧困、高齢、障害等により困難を抱えた女性等が安心して暮らせる環境の整備、女性に対するあらゆる暴力の根絶、災害等非常時における男女共同参画の推進などを重点分野としている。
そのほか、2021年(令和3年)3月に、若者の自殺対策の強化や自殺対策に取り組む民間団体の人材確保等の支援、一人で悩みを抱え込ませない体制づくり、コロナ禍における自殺対策の推進を重点施策として掲げる「第2次京都府自殺対策推進計画」、「第6期京都府障害者福祉計画及び第2期京都府障害児福祉計画」「第9次京都府高齢者健康福祉計画」が策定された。
ヘイトスピーチの防止に関しては、府が管理する公の施設等において、「京都府公の施設等におけるヘイトスピーチ防止のための使用手続に関するガイドライン」に沿った運用を開始しているところであり、また、市町村での同様の取組に向けた支援等も行い、2020年(令和2年)8月には府内全市町村で同様のガイドラインが策定された。
LGBT等性的少数者に関する取組については、引き続き、関係機関と連携した「性的指向と性自認の理解促進等に関する研究会」において必要な取組を進めてきている。
2021年度(令和3年度)は、年間を通じ新型コロナウイルス感染症に関する人権啓発の取組を国や府内市町村、関係団体、大学等と協力し、府内公共施設や公共交通機関、サンガスタジアム by KYOCERA等で行った。
同和問題(部落差別)や障害のある人、外国人などの各種人権問題に係る府民啓発の取組としては、新聞、ラジオ等の広報媒体や府政広報誌「きょうと府民だより」を通じた取組を進めた他、感染症対策を講じつつ、「京都ヒューマンフェスタ」では、「私らしく、あなたらしく。個性を大切にできる社会へ。」をテーマに、トークセッション、国、人権擁護機関等の紹介、人権問題に取り組むNPO等との協働作品の展示などを実施した。人権フォーラムにおいては、「コロナ禍における子どもたちへの支援」をテーマに基礎講演及びパネルディスカッションを実施し、同時ラジオ放送を行い、より多くの府民にコロナ禍において子どもや保護者の課題や支援の方向性を考える契機となった。このような様々な啓発の取組を実施し、府民が人権問題を「自分のこと」として捉え、主体的な行動につなげる機会としたところである。
さらに、同和問題(部落差別)をはじめとした様々な人権の啓発動画を作成、人権ナビに研修用動画として掲載し、府・市町村・教育委員会職員や関係団体などに幅広く活用いただき、人権について考えるきっかけを得られるよう取り組んでいる。
京都府では、「一人ひとりの尊厳と人権が尊重され、だれもが自分らしく生き、参画することのできる社会」の実現に向けて、人権という普遍的文化を構築するため、一人ひとりがお互いの個性や価値観の違いを認め、支え合い、だれもがいきいきと地域で生活できる「共生社会」を実現するための施策を推進している。
一方で、今日、少子高齢化や情報化、国際化が進み、家族の形態も含め社会の多様化が進展する中で、地域の力が低下していることや、様々な格差の問題、孤立社会といわれる無関心時代の到来も指摘されている。また、差別や貧困などの困難に直面している人々に対して、そうした困難への直面が本人の責任であり、また、その解消に向けた施策についても優遇であり不公平であるとするなど、他人を排斥する不寛容な言説が目立つ時代になってきているところである。
人権教育・啓発を進める上では、府民一人ひとりが人権尊重の理念に関する理解を深めることによって、自分の人権とともに他人の人権を守るという意識を身につけ、社会的に弱い立場におかれた当事者が、自身の権利を学び、権利の実現を要求する力を高めていくという視点と、誰もが差別・排除の対象とされることなく社会参加ができるようにしていくという視点が重要である。令和4年度の人権教育・啓発を行うに当たってはこの点をしっかり認識し、様々な人権課題について、一人ひとりが自分の問題として認識していけるようにするとともに、異なる文化や価値観を認め合う意識を醸成していけるよう、創意工夫した教育・啓発に取り組む。
また、国や市町村などの関係機関や、NPO等民間団体と連携を図り、人権問題が複雑・多様化し、その要因が複合化している状況はもとより、学校、地域社会といった現場の状況、差別を助長・拡散させる書込等が見られるインターネットの状況等をしっかりと踏まえ、偏見や差別等による深刻な権利侵害はもとより、生きづらさを抱えた人々に係る様々な人権問題に対応していく。「京都府総合計画(京都夢実現プラン)」においても触れている、様々な人権問題の解決に向けた取組の着実な推進を図り、府民が人権について学び、交流できる機会の拡充や相談体制の充実、ユニバーサルデザインによるまちづくり等を推進する。
なお、府民調査の結果から、「人権三法」に関わる領域への関心度は、「障害のある人」「外国人」「被差別部落出身者」の順に9割~7割程度と関心が高かったものの、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消法」いずれも、一部でも法律の内容など知っていると答えた割合は2割前後に留まっており、「人権三法」の周知をより一層図るとともに、引き続き、相談体制の充実と、府民が人権について学び、交流できる機会の拡充を推進する他、公務員、教職員等の人権に特に関係する職業従事者の研修に取り組む。
また、新型コロナウイルス感染症に関する質問では、感染した人を特定しようとする行為について、約半数が「許されない行為であり、感染拡大に支障が生じる」と答える一方、約4分の1が「身近な地域で感染が判明した場合、やむを得ない」と答えている。全国的な感染拡大に伴い、感染が判明した人(感染が疑われた人を含む。)やその家族、治療に当たる医療従事者等に対する誹謗中傷や心ない書き込み、営業自粛要請等に従わない事業所等への行き過ぎた非難や、ワクチン非接種者へのハラスメントが、SNS(会員制交流サイト)等で見られる状況等があることから、今後のWITHコロナ社会(新型コロナウイルスと共存・共生する社会)を見据え、学校や地域社会、職場など、さまざまな場を通じて、人権に配慮した行動に努めるよう、教育・啓発に取り組む。
※ヤングケアラー:家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども
※センシティブ情報:思想、信条及び信教に関する個人情報、個人の特質を規定する身体に関する個人情報並びに社会的差別の原因となるおそれのある個人情報
※ゲートキーパー:死にたいほど深刻な悩みを抱えている人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人
新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みて、海外から帰国した人、外国人、感染者や濃厚接触者とその家族、新型コロナウイルス感染症の対策や治療にあたる医療従事者や社会機能の維持にあたる方とその家族等の人権侵害防止に向けた研修等の実施
〔教職員〕
〔社会教育関係職員〕
〔府職員〕
〔市町村職員〕
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