中丹広域振興局
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高橋治子理事長(写真右)からお話を伺いました。
京都府福知山市夜久野町は、古くから漆の採取が行われています。漆の採取を「漆掻(か)き」といいます。夜久野では独自の道具と技術による採取方法「丹波の漆掻き」が守り継がれ、京都府無形民俗文化財になっています。伝統を守り、再び漆掻きを盛んにと活動するNPO法人丹波漆の高橋治子理事長にお話をうかがいました。(福知山公立大学2年 角友祐衣)
かつて盛んだった夜久野の漆ですが、戦後の産業の移り変わりや、中国からの輸入漆の増加、需要の減少によって漆産業は衰退していくこととなりました。夜久野だけでなく全国的に衰退。一時、西日本で漆掻きは夜久野だけになってしまいました。そんな中で夜久野の漆を守るために動いた人がいました。故・衣川光治さんです。一人の思いは広がっていき、その思いを引き継いだ岡本嘉明さん(前理事長)がNPO法人丹波漆を設立し、現在も夜久野の漆を守っておられます。
NPO法人丹波漆は平成24年に設立され、植栽保全事業、後継者育成事業、PR・教育・交流事業を使命として、活動を行っておられます。
夜久野の漆掻き技術を残すために尽力されてきた衣川さん、受け継がれた岡本さんの思いに共感した人たちが全国から集まって、今のNPO法人丹波漆が存在しています。例えば理事長の高橋さん。中心的に活動している山内耕祐さん。そのほか現地で植栽活動などに携わっているみなさんは、夜久野の漆の魅力に惹かれて市外からやって来た人たちです。
現在は主に、植栽保全事業に取り組んでおられますが、PR・教育・交流事業もあって、地元の人、小学生にも漆の魅力を発信して、地元の小学生に夜久野の特産品として漆を挙げてもらえるようになりました。
漆掻きについて語る高橋さん
漆は縄文時代から塗料や接着剤として使われています。一般的に知られているお椀、お箸といった漆器を作る際の塗料としてだけでなく、欠けた器を接着するためにも使われています。最近では、磁器の継ぎ目に金粉をまぶして磁器を修復する技法である金継ぎが人気ですが、その金粉をつけるためにも漆が必要であり、器を長く使っていくためにも漆は大きな役割を果たしています。
私が一番驚いたのは、神社仏閣にも漆は欠かせないということです。例えば、金閣寺に金箔を貼る際にも漆が接着剤の代わりとして使われています。では、なぜ神社仏閣に使われているのか?それは、漆は乾くととても丈夫な素材になり、熱や酸にも強くなるからだそうです。漆が皮膚につくとかぶれてしまうのも、それだけ強い成分が含まれているからだと高橋さんが教えてくださいました。
また、文化財の修復は国産の漆を使用しなければいけなくなったため、夜久野に漆について学びに来る人も増えているそうです。夜久野で学び、漆の木を植栽して漆掻きをするようになった地域が西日本で増えてきました。
漆は意外と身近に使われていて、古くから日本人と密接に関わっています。そのため、漆は日本の文化を築いてきたともいえ、後世にも残していかなければならないのです。
また、高橋さんは、「漆は天然の塗料であり、木を育てることができれば何年でも使い続けることができる」とおっしゃっていました。持続可能な素材であるからこそ守り伝えていくことが大切だと学びました。
しかし、現在、漆の木は減少しています。
夜久野は明治時代には、約500人もの漆かき職人がおり、漆の産地として栄えていました。しかし、化学塗料が発達、また中国から安い漆の輸入が増加し、漆を生業とする人は減少し、それに伴い、漆の木を管理する人も減少してしまったのです。
先ほども述べたように、漆の木は減少しています。そこで、NPO法人丹波漆では、毎年100本の漆の木を植えることを目標に、地域の人々から土地を借りて漆の木を植える活動を行っておられます。現在までに1800本植えてこられましたが、木に合っていない土地で育てることの難しさや、鹿や猪の被害にも悩まされており、苦労が絶えないとおっしゃっていました。
また、漆の植樹祭である「うえるかむまつり」を開催されたり、個人で漆の木を植えたいという地域の人にも漆の苗木を提供されたりしています。
漆は採れるようになるまで約10年かかります。また、1本の木から約200gしか採れないため、とても貴重な資源です。そして、漆を採るときは全て手作業で行われています。
6月から10月までのシーズン中、4日に1回のペースで採取していきます。
採取の仕方としては、まず、専用の鎌で木の皮をはぎ、次に専用のカンナで木に傷をつけます。傷によって出てきた漆液を1滴、1滴ヘラですくって筒に入れていきます。漆は空気に触れると固まってしまうので採取したら素早く密閉処理をしていく必要があります。
このように、漆を採取することには多くの労力が必要です。
漆を採取する「丹波の漆掻き」。足場を組んで作業をする
道の駅「農匠の郷やくの」にある市立施設「やくの木と漆の館」の皆さんに漆の特徴について教えてもらいました。夜久野の漆は中国産の漆と比べ、さらさらとしており、香ばしい匂いがすることが特徴です。
漆は茶色というイメージがありましたが、生漆に顔料を加えることで、赤、青、黄などいろんな色を出すことができるので、とてもきれいでした。また、摺り漆という技法では15回も漆を塗るそうです。漆は乾くまでに1日かかります。そして、温度と湿度も重要になってきます。温度は20℃、湿度は80%のときに漆は最も活動し、湿度が高いと乾きやすいという特徴を持っています。漆は塗る際にも、乾かす際にも細かい管理が求められるからこそ美しい漆器が出来上がるのだと思いました。
やくの木と漆の館は漆についての資料が展示してあり、漆や木工関係の作品展示も定期的に開催されています。体験工房があり、本物の漆を使った拭漆、刷毛塗り、加飾などの体験ができます。簡単な絵付け体験は、小学校の校外学習の機会としても人気で、また何度も通って専門的な技術を学び、作家として活躍するようになった方もいらっしゃるそうです。
やくの木と漆の館で、漆塗りについて話を聞く
NPO法人丹波漆は漆器関係者や行政、研究機関の人など多くの人が参加したり応援したりしていますが、実際に現場で活動している人は5人。高橋さんは今後の目標として、後継者育成のために、若い人たちに漆に興味を持ってもらうための機会を増やしたいと話してくださいました。
取材を終えて(学生コメント)
今回の取材を通して、漆には歴史と文化が詰まっていて、これからも残していかなければならないと強く感じさせられました。
漆を採って、漆器を作るにしても繊細な作業が求められ、知れば知るたびに漆の魅力があふれていました。
夜久野という小さな町では、日本の文化を支えてきた漆を守り、つなげていこうとする方たちの努力と漆と真摯に向き合って学んでいく姿を見ることができました。
NPO法人丹波漆
福知山市夜久野町直見2452
電話090-8972-5062
公式サイト https://www.tanbaurushi.org/(外部リンク)
福知山市やくの木と漆の館
福知山市夜久野町平野2199 道の駅「農匠の郷やくの」内
電話0773-38-9226
水曜休館(体験は木曜も休み)
【プロフィール】
NPO法人丹波漆理事長 高橋治子さん
福知山市夜久野町在住
1966生まれ
大阪府出身
1999年 香川県漆芸研究所修了
同年 旧夜久野町立やくの木と漆の館開設準備に伴い福知山市へ移住
2000年 やくの木と漆の館開館時から漆芸と漆文化の普及に尽力
2012年 NPO法人丹波漆設立に参加
2017年 市立やくの木と漆の館館長を退任
2021年6月 NPO法人丹波漆理事長就任
漆芸作家として第37回「日本伝統工芸近畿展」日本工芸会近畿支部長賞など受賞歴多数
現在、福知山市文化財保護審議委員、福知山市展運営委員
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