第3回次世代の文化創造研究会開催結果
日時
平成16年2月17日(火曜) 午前9時30分から11時30分まで
場所
京都府公館
出席者
太田垣實委員、河島伸子委員、小暮宣雄委員、金剛育子委員、鈴木千鶴子委員
中島裕規子委員、ポーリン・ケント委員、鷲田清一座長
(五十音順、敬称略)
議題
- 委員による施策事例
- 次世代の文化創造の基本的な考え方について
- 次世代育成のための具体的施策について
委員意見の要旨
次世代の文化創造の基本的な考え方、具体的施策について
委員施策事例1
- 作品を観てもらうための努力(潜在的に興味を持っている人の掘り起こし等)が必要であるが、作品をつくる文化団体にとっては、時間、資金、能力等の面で限界があり、このような鑑賞者開発を専門にする支援団体が必要。
- 鑑賞者開発には、(1)量的な面(鑑賞者を増やす、リピーターも含む)と(2)質的な面(鑑賞することによって何かを得てもらう)の二つの側面がある。
- イギリスには鑑賞者開発を専門とする団体がいくつかあり、例えば、今まで年1回しか来ていない人を3回来てもらうようにする、クラシックだけ聴いていた人を別の分野の音楽も聴いてもらうようにするといったパイを大きくするための活動を展開している。
(活動内容)
a 鑑賞者動向調査
b 各文化団体をコーディネートしてキャンペーンを行う。
c 各団体の公演スケジュールを重ならないように調整する。
d 子ども連れの家族が行きやすいイベントを企画する。
e 展覧会、公演情報等をニュースレターにして届ける。
委員施策事例2
- 日本の文化の中でもJポップ、ファッション、アニメ、コンピュータゲームなどの若者文化が海外で注目されている。しかし、若者文化の多くはオタク文化になっていて、自己満足の域を出ず、広がりがない。
- 次世代に伝えていくべき共有できる文化に、若者にもっと参加してもらいたい。
- 小学校で7割、中学校で5割、高校で3割の生徒しか勉強についていけないといわれているが、一方通行であることが原因ではないか。次世代の育成には参加できるようにすることが必要。
- 例えば、劇の台詞を自ら作り、意思決定に参加させるとか、照明に関わるなど、プロセスに参加させるような総合学習が必要。
- 今の学生は、ややこしい人間関係を避けて一番やり易い方法しか考えない。文化に対する興味の持ち方も中身が薄い。
- 一つのプロジェクトに最初から最後まで関わり、さらに参加するだけでなく、なぜこの人はプロジェクトに熱くなっているのかを体感する経験が必要。こういう経験が教育現場でできればいい。
その他意見
- 美術館・博物館の入場者は、ここ10年で年平均3万人づつ減っている。館は子ども向けワークショップやギャラリートークの実施など一生懸命だが、鑑賞者増加には繋がっていない。一方的なものになっていることも原因かと思われる。
- 本当に芸術文化が好きになっているかが問題。欧米では景気が悪くなっても鑑賞者は減らない。食費を削ってでも鑑賞するといった土壌をつくることができるか。せっかく夜間開館したのに予算が削られて続けられないという状況ではだめ。関わっている人の熱意が問われる。日本は欧米に比べ、日常的に美術、音楽等を楽しむ土壌が少ない。
- プロセスに関わるのは大事なこと。新しい変容体のような動きでプロジェクトができればいい。大人が関わらず、見守ることが大事。
- 様々な若者がいるが、本物を求めているところもある。美術系大学で教えているが、学生に銀閣寺の銀沙灘や向月台を見せると非常に興味を持つ。身近にいいものがありながら知られていない。とっかかりがあれば興味を持つようになる。
- 美術館・博物館は多くつくられたが、逆に創作のエネルギーは落ちたように思う。変に組み込まず、様々なものが混沌とした中で何かをつくり出していけるように導いていく施策が考えられないか。
- 京都市交響楽団が親子コンサートをしているが、人気を集めている。本来やりたいことと違うかもしれないが、やりたいことをするために必要なことだと思う。
- NPOが学校に芸術家を派遣し、演奏を聴かせるという形態ではなく、風船など身のまわりのものが楽器になり、誰でもが音楽家になれるということを実感してもらうという総合学習の授業の例。芸術家としては、即興性の中でつくりあげていくのがプロセスであり結果となるのであるが、達成目標を設定しないと授業にはならないとする学校の先生と主張が対立していた。制度的な教育の限界か。学校以外でこういう試みがされてもいいのではないか。
- ある大学の音楽学部が、小学校における文化芸術に係る授業のニーズを調査したところによると、大学が考えていた単にクラシックに触れるというものではなく、例えば、朝鮮文化に触れるため、キムチを食べてアリランを聴くなど、総合学習として幅広く学習することを学校側は望んでいることがわかった。また、親も総合学習に参加したいというニーズがあることもわかった。ニーズを正確に把握し、対応することが必要。
- 宇治の小学校で、教諭と劇団が連携して、演劇を鑑賞しながら算数を教えるという試みが行われている。
- 劇場鑑賞者は減っているが、六本木ヒルズの森の美術館など勝ち組だけが勝っていく状況にあり、インターネットで情報網が発達するほどその傾向が強まる。しかし、選ぶ力を持ち合わせていないのではないかという危惧がある。プロセスに参加する場をつくり、様々な選択肢があることを提示する必要がある。
- 学生がアルティの催しのお手伝いをして、音楽家と交流できる機会があったが、打ち上げの場に居合わせることができたことが、学生にとって一番の収穫だったようだ。例えば、文化お手伝いとして、銀閣寺の掃除をしてから観覧してもらうなど、地域文化、生活文化、芸術文化それぞれへの広がりをもったしくみづくりを考えてもいいのではないか。
- プロセスが欠落しているというのは大事な視点。若者世代の文化には空しさを感じる。
- 深い文化とは、長年つくりあげてきた積み重ねの上にできるもの。先人が残してきたものを再認識するという精神のあり方が、若者が新しいものをつくりだすことに繋がる。
- 金剛能楽堂では親子鑑賞会も開催しているが、すぐに完売になる。次世代育成のため、地道に積み上げていきたい。
- 親子鑑賞会でも普段どおりに公演し、本物をみてもらうようにしている。能に限らないが、本物をみてもらうのは大事。行政が公演を買い取って子どもにみせるということも考えられる。
- パターンを教えるのだけではだめと言われて久しいが、小中学校にゆとりの時間が増えても、結果的には学力だけを問うという教育の根本が変わらないと同じこと。プロセスを大事にした教育が必要。
- 京都市では市内の美術館・博物館のマップをつくり、スタンプラリーで認定証を発行するという事業をしている。こんな美術館もあったのかと新たな発見がある。府内版があってもいいのでは。
- 裾野が広がらない原因の一つに料金の高さがある。
- 立案段階から子どもを参加させるのも一つのやり方。
- 2年前のオペラ公演で、通常は入れないことが多い幼稚園の子どもにも見ることができるようにしたが、非常に喜ばれた。小さい頃から芸術文化に触れる機会をつくることが重要。
- 海外のオペラは安い料金で立ち見ができる。すべての公演は無理でも1日でも立ち見を設けてはどうか。
- オペラをやっていて、芸術系の大学で音楽や演劇などもっと幅広く一人の学生に教える必要があることを感じる。
- 文化をつくること自体が楽しいということを伝えていきたい。シャッターに小学生の絵が描 かれている商店街があったが、このように文化は身近なものであるという環境をつくる必要がある。例えば、学校の壁に絵を描くなど、学校の中に美術を取り入れるのもいいのではないか。
- ドイツ、オーストリアでは、次世代を育てるために、クラシックコンサートで演奏者の見え ない悪い席を100円程度の低料金で提供したり、野外コンサートの囲いの外で、タダ同然の料金で子どもたちが遊びながら聴いている。お金のかからないやり方もある。
- 大阪難波の開発がストップした地下空間を利用して、2週間にわたり、光と映像のアート空間にするという催しがあったが、3時間待ちになるほどの盛況だった。電気工事関係者や学生など多くの若者のボランティアが参加したプロジェクトで、今のアートのあり方の一つだといえる。関わった人たちは、受け身で教えてもらうことではなくて、プロセスに参加することを求めている。
- 行政が事業の主体となるより、サポートしていく必要がある。誘い、支援し、見守る方がいい。
- 伝えていくべきものがあるがどうかをきっちり押さえることが大事。
- 古典芸能では後継者を育てる際に、子ども向けに教えるのではなく、いきなり大人の世界に飛び込ませる。子どもに大人の仕事ぶりを伝えることによって大人の本気度を伝えている。