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京都府では、昭和56年に「京都の文化は日本の文化」(「京都府文化懇談会」)とする提言を得、平成9年には「未来を担う世代が、すでに深く傷ついており、閉塞に向かいがちな社会を一人ひとりが日々の生活においてそのような閉塞化にたえず揺らぎをあたえ、いかに明るくしうるかが重要である」(「京都の府民文化の未来を考える懇談会」)との提言を得て、府の文化行政を進めてきた。
新しい世紀に入り、いわゆるバブル崩壊後の日本を経済学的に、また、社会学的に総括する中で、新しい価値観による日本の再構築を論じる試みもなされてきている。「文化力」もそうした中で使用される頻度を増してきた言葉である。
この懇話会では、過去の二提言を踏まえつつ、この京都の地において新世紀の頭初に取り組むべき課題として次の3点に絞り、どのような文化施策を現実のものとすることが可能であるかの検討を行っている。
上記の課題に対応するため、懇話会内に二つの研究会を設置し、文化施策の具体化を含めた検討を行い、「京の文化振興プラン-次世代の文化創造について-」、「京の文化振興プラン-文化力による京都活性化について-」を策定した。
現代社会は世代間、家族間、地域間のコミュニケーションがぎすぎすし、とても息苦しく、本来文化が育まれ、継承されるべき場所が奥行きのない閉塞した場所になってきている。学級崩壊、家庭崩壊、ひきこもり、凶悪化する青少年犯罪などが顕在化するなかにあって、未来の主役である次世代が健やかに成長し、自らの人生を切り拓き、生き生きと人生を暮らせるよう導くことが今こそ求められている。そして地域崩壊、就労危機、介護問題、環境問題や食の安全性、老後への不安を含めると、社会のあらゆるシステムへの信頼崩壊の問題が生じ、生きがいのある生活、安心のできる生活、ときめきのある生活の基礎自体が危うくなっているといっても過言ではない。ある信頼感のなかで生活できているということ、それが文化であるとすれば、今私たちが直面しているのは、まさに文化そのものの不全と言えるのではないか。
この時代に「文化」について深く考えることが重要なのは、この時代が直面する問題がこのように文化の根っこにかかわるものばかりだからである。世界の感じ方・とらえ方・イメージの仕方、何を大切にするかという考え方、人とのつきあいかた・交わり方、組織の仕方、身のさばき方等々、私たちが「文化」と名づけてきたものを総点検し、何を大切にするか、何をどのように次世代に継承するかを、府民・市民のみならず行政や企業も、真剣に考えないと先に進めない時代にはいっているからである。そして、そうした困難を子どもの眼から逸らせるのではなく、子どもとともにそれに向きあうことこそが、子どもをほんとうの意味でたくましくする。
京都には、日常生活のなかで「ほんまもん」の伝統文化を享受できる生活があり、歴史のなかで究められた芸術と日常生活スタイルとにまだ連続性がある。このことを再確認し、わたしたちがいま直面している文化の危うさに対処する必要があろう。その上に立って都市や地域の再生を、そして次世代の優れた人材育成を図ること、それに他に先駆けて取り組むことが京都の使命である。
少子化や核家族化の進展の中で、子どもたちは親や教師、つまり現役世代の最前面に対し、従うか、反発するかの二者択一を常に迫られており、それが、子どもたちの生活を息苦しくしている。このような状況を少しでも軽減し、子どもたちが、いきいきと自ら企画・行動・評価・引継を行う能力を養い、変化の激しい時代を生き抜く人間力をはぐくんでいくことができるような環境の整備や方策が求められている。
昔は、子どもたちがおじいさん、おばあさん、近所のおじさん、おばさんにも育てられた。このような三世代同居の家族形態という「昔にかえる」ことは容易ではなく、また、直接的には行政施策の対象外である。
しかしながら、子どもたちが親とは異なる世代と日常的に接することができる場や仕組みの提供、その他の支援を行うことにより、「三世代型の生活態様」を地域総体として護り、さらに発展させていくことが、これからの子どもの生活にはとりわけ大事である。
家庭や学校、地域など様々な場において、大人や高齢者など多世代の支援を受けながら、仲間や先輩、年少者とともに、先人達が築いてきた文化の神髄に触れ、その技術や工夫、自然との共生の仕方などに対して驚きや畏敬の念を抱き、また、仲間とともに競い合い、自ら文化を創造していくことに喜びを見いだすことができる仕組みづくりや場の提供が重要となる。
そのためには、親や保護者等子どもの養育に責任を有する者の自主性を尊重しながら、家庭教育や学校教育、地域と大人・子どもたちとの関わりにおいて地域総体として次の方向性に沿った施策の具体化を図ることが必要である。
▼子どもたちが、多世代の支援を受けながら、ものづくりをはじめとする様々な「ほんまもん」の文化を体験する仕組みづくりと場の提供
【事業例】
インターネットやテレビなどでの仮想体験だけではない、生の文化活動にふれることを通じ、京都にまだ生きている「手」の文化※を体感させる
・地域文化(地蔵盆など)の手伝い
・府内の文化施設を活用した文化財、観光ガイドの手伝い
・文化の裏方の仕事(社寺の庭園整備など)の手伝い
・伝統芸能(能・狂言など)の公演や稽古の手伝い
・現代芸術や芸能(演劇など)の公演、録音、練習の手伝い
・美術工芸や職人仕事の現場の手伝い(美術館、工房など)
・映画制作や上映の手伝い
・建築(町家の改造など)の手伝いなど
※「手」の文化=手間(ていねい)、手ざわり(肌で感じる)、手当(ケア)、手つづき、手伝い(協働)、手ほどき(生きた教育)、手塩にかける(大事にする)
職人がものづくりに携わっている場や芸術家の創作の場に子どもたちが一定期間通い(あるいは滞在し)、本気の創造の場を体験する
▼子どもたちが、仲間とともに自ら文化を創造する喜びを体験する仕組みづくりと場の提供
【事業例】
十代の自主企画の文化祭。企画から運営、後始末、継承までを、十代がおこなう。大規模なものではなく、手作り感のあるものがよい。子どもにある程度の予算管理を認めるなど、子どもにやる気と責任を持たせる。
京都では長い歴史の中で「もてなし」や「しつらい」など相手を気遣う気持ちを大切にし、昇華することにより芸術の域にまで高められた伝統文化や生活文化をはじめとする多様な文化が花開いてきた。一方で、それらを守り支え、また、よりどころとしながら、各地域においても個性ある豊かな文化が育まれてきた。現在、府内各地において、こうした文化を基盤とする多彩な伝統・観光産業や先端的な学術・研究機能の集積等、未来に開かれた発展力が認められる。
しかしながら、経済・社会の著しい変化や少子高齢化の進展などの中にあって、ともすれば、人や地域の絆が希薄となり、また、それぞれの地域における活力の低下が指摘されるなど、こうした京都文化の持つ本来の力が発揮されているとは言い難い状況にある。
こうした現状を打開し、府民がいきいきと活躍できる心豊かで活力ある京都府を 実現していくためには、京都がなによりも誇りとしている文化を「文化力」として捉え直し、再構築することにより、府域の産業活性化や各地域の振興につなげていくことができる仕組みづくりが求められている。
高い文化力を有する国内外の企業や様々な発想を持つ人材等と連携して、文化力をビジネスにつなげ、「文化による新たなマーケット」の創出を図る。
作家等とマーケットの出会いの場の提供などにより、京都の文化と産業の担い手としての作家・職人等の育成・支援を図る。
府内各地域において地域文化の振興に携わる人材を支援するとともに、日本国内はもとより、世界に向けた京都府の文化情報の発信機能を強化することにより、更なる地域文化と伝統・観光産業等の活性化を図る。
▼「文化による新たなマーケットの創出」「作家・職人等の育成・支援」「地域文化の活性化」を施策の方向の重要な柱に据え、これらを総合的に実施し、相乗効果により、文化力の向上と京都の活性化を図る
【事業例】
・高い文化力を有する企業等によって構成されるネットワークを創設
・文化をビジネスと捉える発想を持つ世界的な人材を迎えての国際フォーラム等を開催
・文化を切り口とした起業化への発想を競うコンペティションを開催
・コンペティション受賞者等に対して起業までを支援
・2008年に千年紀を迎える「源氏物語」に関する多様な事業を展開し、国内外に京都の歴史と文化を広くPR(例:NHK大河ドラマ化、国宝「源氏物語絵巻」展や国際源氏物語シンポジウム等の開催 ほか)
・京都文化のブランド力を高めるための認証制度を創設
【事業例】
・作家(作り手)と収集家等(買い手)との出会いをコーディネートする「アートソムリエ」制度の整備や「アートフリーマーケット」を開催
・若手作家等の活動資金等への支援制度(アーティストファンド)の構築
・海外に進出している京都企業の事務所の受付空間等を借用した京都の若手芸術 家等の作品展示など、京都のイメージをPR
・複数の外国語に対応する京都文化情報に関するホームページを開設し、若手芸術 家等の作品情報など京都の総合文化情報を発信
・京都文化博物館等を活用した、若手芸術家等の作品発表や京都の伝統文化の体験など、総合的な京都文化の発信拠点を設置
【事業例】
・地域文化振興等につながる事業を企画するコーディネーターを支援
・携帯電話の写真撮影機能を活用して、地域の文化的な行祭事などを題材にした写真展を開催
・京都文化博物館やJR二条駅周辺等にギャラリーや展示スペースを設け、府内各地での歴史・地域文化の展示や食文化の紹介(販売を含む)などを実施
このプランの趣旨を踏まえた施策を総合的に推進するため、産業の活性化や各地域の振興を含め、文化力により京都の活性化を図るための条例を制定する
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